嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「気にくわないな」

「へっ?」

「もう食べたか?」

 私と仁くんの間に明らかに温度差が感じられた。

 なんか怒ってる?

「う、うん。ごちそうさまでした」

「こっちに来て」

 不機嫌さを露わにした仁くんは、立ち上がった私の手を引いて窓際に押し付けた。

 背中にはガラス窓、正面には精悍な顔つきの仁くん。

「どうしたの?」

 返事の代わりに荒々しいキスをされた。

「ふっ……んぁ」

 無理やりこじ開けられた唇の隙間から舌が入ってきた。怖気づいて逃げ惑う私の舌を簡単に絡め取り、側面をぬるりと舐めた。身体がびくりと大きく跳ねる。

 じゅっと音を立てて舌を吸われ、閉じることの許されない口の端から唾液がこぼれて肌を伝う。

「んっ……」

 逃げようとしても、握られた両手首はガラスに縫い付けられて動かない。唇を押しつける力も強くて顔の向きすら変えられない。

 苦しい。食べられているみたいだ。

 ようやく解放されて、はあはあ、と肩で息をしながら仁くんを見つめる。

 まだ熱をはらんだ瞳は揺れていて、またすぐに噛みつかれそうだった。
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