嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「これ……」

「受け取ってほしい」

 目の奥が熱くなった。涙が溢れそうになるのを必死に堪えて声を絞り出す。

「ありがとう。よろしくお願いします」

 仁くんが丁寧な所作で私の指にエンゲージリングを通す。

「綺麗」

「勝手に選ぶのもどうかとは思ったんだが……」

「仁くんが私の顔を頭に浮かべながら選んでくれたんだよね。すごくうれしいよ。それに、美的感覚が冴えている杏ちゃんと行動を共にする機会が多いからか、自分がそこまでセンスがないのも自覚しているし」

「ここでも杏太が出てくるのか」

 仁くんが、やれやれ、といったふうに苦笑する。

「ん?」

 どういう意味?

「杏太の存在にはずっとやきもきさせられていた」

「えっ。杏ちゃんだよ?」

「杏太はカッコいいだろう。遼平よりも」

 どちらもカッコいいと思うけど。もちろん仁くんには敵わないけどね。

「仁くんってブラコン?」

「ロリコンでもなければブラコンでもない」

 どうやらこの前の発言を根に持っているみたいだ。

「ヤキモチ焼くなんて変なの。仁くんはこんなに素敵な人なのに」

 意外な一面を知れてうれしい。楽しくなってクスクス笑う。

「花帆が好きだからだよ。好きだから、たくさん嫉妬するし、俺だけのものにしたいと思う」

 仁くんって、けっこう胸の内を正直に話す人なんだ。

 私は恥ずかしくていろいろと躊躇してしまうのに。
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