嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「さっきの続きをしてもいい?」

「さっきって、いつの?」

 キョトンとしている私の唇をさらった仁くんの手が、指輪をつけている薬指をツツツッとなぞった。

「一応、念のために言っておく」

 仁くんはまるで秘密事を話しているかのように耳元に唇を寄せて囁く。

「プロポーズをするためにこの場所を選んだだけで、決してやましい気持ちはなかった」

「だからスイートルームじゃないといけなかったのね……」

 自分に言い聞かせるように呟くと、目と鼻の先にある口元がゆっくりと弧を描く。

「でも、許されるのなら花帆の全部を知りたい」

 鼓動が速くなる。触れ合っている部分から伝わってしまいそうだ。

 全部って、そういうことだよね。

 まだキスしかされていないのに身体の奥の方が疼いた。

 もっと仁くんに触れたい。

 仁くんの胸元に顔を埋めて「私も」と伝える。
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