嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「こっちに来る」
わっ、と驚いた阿久津さんの声に顔を上げる。
私たちの前までやって来た仁くんが大鍋に視線を落とした。
「茹で具合は確認したのか?」
「まだです」
仁くんは熱湯に手を突っ込んで小豆を摘まんだ。
こういうシーンを今までに何度か見てきたけれど、火傷をしないかハラハラする。だって絶対に熱いもの。
親指と人差し指の腹で豆を潰して、「もう少しだな」と呟いた。
「大丈夫ですか?」
心配して声を掛けると、仁くんは「なにが?」と瞬きをする。
「火傷とかしないのかと思いまして」
「大丈夫だよ。慣れているから。花帆は優しいな」
目を弓なりに細めて、聞き間違いじゃないかと疑うくらい優しい声で諭された。
仁くんどうしちゃったの。花帆って呼んじゃっているし。
これまでに工房で話しかけられた記憶はほとんどない。それに加えてこの状況。
そもそもこういうのは阿久津さんの仕事だ。仁くんのような上の立場の人間が、わざわざ小豆の茹で具合を確認するのは不自然すぎる。
わっ、と驚いた阿久津さんの声に顔を上げる。
私たちの前までやって来た仁くんが大鍋に視線を落とした。
「茹で具合は確認したのか?」
「まだです」
仁くんは熱湯に手を突っ込んで小豆を摘まんだ。
こういうシーンを今までに何度か見てきたけれど、火傷をしないかハラハラする。だって絶対に熱いもの。
親指と人差し指の腹で豆を潰して、「もう少しだな」と呟いた。
「大丈夫ですか?」
心配して声を掛けると、仁くんは「なにが?」と瞬きをする。
「火傷とかしないのかと思いまして」
「大丈夫だよ。慣れているから。花帆は優しいな」
目を弓なりに細めて、聞き間違いじゃないかと疑うくらい優しい声で諭された。
仁くんどうしちゃったの。花帆って呼んじゃっているし。
これまでに工房で話しかけられた記憶はほとんどない。それに加えてこの状況。
そもそもこういうのは阿久津さんの仕事だ。仁くんのような上の立場の人間が、わざわざ小豆の茹で具合を確認するのは不自然すぎる。