嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
どこで誰に見られるか分からないので、個室のあるレストランで落ち合うことにした。
更衣室で萌と揃って支度を済ませ、一足先に居酒屋で男性陣を待つ。
工房からほど近く、一度だけ専門学生の頃に友人と訪れた。
お洒落居酒屋とうたうお店のなかはラグジュアリーな雰囲気に溢れている。ダウンライトに照らされた萌の顔はなんだか大人びて見えた。
長テーブルに四席用意された個室は、圧迫感がないくらいとても広々としている。
「ここのお肉美味しいんだよ。国産和牛だからね」
萌と隣り合わせで座り、ひとつのメニュー表を一緒になって覗き込みながら写真を指差す。
「たぶん朝霧さんがご馳走してくれるよね」
「うん。好きなの頼んでいいって言うと思う」
「よっしゃ! じゃあ花帆が肉にするなら私も同じものにする」
「オッケー、そうしよう!」
これから萌に仁くんとの関係を公表しなくてはいけないプレッシャーからか、気持ちが昂ぶっている。
萌も会社の常務取締役との食事会に緊張しているのか、いつも以上にテンションが高いように感じられた。
「なにも聞かないんだね」
ふたりきりになる機会は朝からいっぱいあったのに、萌は一度も今日の本題に触れようとはしない。