嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「なんとなく、言わんとすることは分かるからね」

「分かっちゃうの?」

「そりゃあね。今日なんて工房でいちゃついていたし」

 なんと。気づかれていないと思っていたのに、しっかりと目撃されているではないか。

 言葉を失っているところへ、仁くんと阿久津さんが揃って姿を現した。

「お待たせ~」

「悪い、待たせたな」

 キャラが違いすぎるふたりが並ぶとものすごい違和感だ。

「ふたりで来たんですか?」

 萌が聞く。

「そうだよ~」

 阿久津さんは見るからにご機嫌で、今にでも鼻歌を鳴らしそうな雰囲気がある。仁くんはいつもと変わらないクールな面持ち。

 うん。今日も今日とてカッコいい。

 私の正面に仁くん、その隣に阿久津さんが座ったのを確認してからメニュー表を指差す。

「私たち特選和牛のステーキにする。前に食べた時すごく美味しくて感動したんだ」

 飲み物はどうしようかな、とドリンクメニューに視線を移す。

「誰と来たんだ?」

「ん?」

 顔を上げる。仁くんの目が笑っていない。

「誰とって……友達だけど」

 説明をしても納得していなさそうな表情。

「専門の時の、女友達だよ」

 詳しい情報を付け足すと、「それなら俺も同じものにしようかな」と、澄ました顔をする。

 仁くんの嫉妬深い一面に絶句していると、斜め向かいに座っている阿久津さんがまたもや身悶えていた。
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