嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
おじいさまはチラリと箱を覗き込んだ。
「店の売り物っていうわけではないんだな」
「少しアレンジした。カーネーションは色によって花言葉が変わるから」
箱のなかで咲いている白色のカーネーションの花言葉は“あなたへの愛情は生きている”
「沙倉さんは花言葉に詳しいですか?」
尋ねると沙倉さんはこくり、と大きく頷く。その瞬間、ポタッと涙の粒が落ちた。
あ、もらい泣きしそう。
仁くんは淡々と説明を続ける。
「この錦玉羹は『おもいで』という商品名。なかは、びわ、さくらんぼ、鹿の子豆。沙倉という名前にちなんで桜の花びらを浮かべた。あと、タンポポに型抜きした白餡の羊羹も入れてある」
言われてみれば、ささやかに黄色の花が浮かんでいる。
タンポポの花言葉は“幸福”と、綿毛が飛ぶ姿に由来した“別離”がある。
これらを踏まえて考えると、沙倉さんとの思い出には別れがあった。でも幸せだった、という意味が込められている。