嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 和菓子ってすごいな。

 冠婚葬祭と隣り合わせで、いつも私たちのすぐそばにある。

 和菓子に込められた想いを大切な人へと託す。

 仁くんのような職人は、ほんの少しばかりそのお手伝いをするのだ。

「ありがとう」

 沙倉さんが声を震わせながら、とても大切そうに化粧箱を両手で抱えた。

「本当に、ありがとう」

 仁くんの想いはきちんと届いたのだ。

 涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。相当変な顔になっていたのか、私と目が合った瞬間に仁くんがたまらないといった様子で噴き出した。

「もうっ! 人の顔を見て笑うなんてひどい!」

 むくれると今度は沙倉さんまでもが笑いだす。よく見たらみんなが微笑を浮かべている。

 ああ、あったかいなぁ。

 かけがえのない時間を共有させてもらえてよかった。

 こんな素敵な人たちと家族になれるなんて私は世界一の幸せ者だ。
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