嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「花帆、いろいろとありがとう」

 改まって仁くんからお礼を言われて激しく首を振る。

「ううん。私はたいしたことしていないよ」

「花帆がいてくれてよかった」

「私は仁くんの笑顔が見られてよかったよ」

「そうか」

 仁くんがめずらしく恥ずかしそうにはにかむ。


 はあー……好き。

 胸に飛び込んで思いきり仁くんの匂いを嗅いで体温を感じたい衝動に駆られたけれど、もちろんそんな真似はしない。

「沙倉さんとあまり話ができていないけど、よかったの?」

「俺の気持ちを伝えられたから、今日のところはこれで十分。これから長い時間をかけてゆっくり修復できればいいと思っている」


「そっか」

 これきりにならなくてよかった。沙倉さんとの関係について前向きに考えている。

「花帆に渡したいものがある」

「もしかして、それ?」

 風呂敷に包まれていた最後のひとつだ。二階に上がる時に仁くんが持ってきたので、もしやと思っていた。

「誕生日になにもしてやれなくて悪かったな」

 唐突に謝られて面食らう。

「いいよ、そんな。気にしてないよっ」

「ずっと気がかりだった。こんなもので申し訳ないけど受け取ってほしい」

 鼓動が速くなる。

 ドキドキして手が震えた。
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