嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
箱を開くと、なかには少し大きめの赤い花の練り切りがあった。中心が淡い薄紅色になっていて、芯の部分には小豆があり、その周りには金粉が散っている。
「これは……アネモネ?」
「そうだ」
「もしかして、私の誕生花だから?」
仁くんが表情をやわらかくする。
私の誕生日である四月二日の誕生花はアネモネ。赤いアネモネの花言葉は“きみを愛す”
胸がいっぱいでなにも言えない。
大きな深呼吸をして意識的に心を落ち着かせた。
「次の休みにちゃんとしたプレゼントを買いにいこう」
「……これで十分だよ」
「いくらなんでも和菓子ひとつで済ませられない」
「私はずっと仁くんが好きだったでしょ。だから、仁くんの気持がほしくてたまらなかった。これはその一番ほしかった想いが詰まっているから。だからこれ以上にうれしいものはないよ」
おもわず化粧箱を抱きしめる。沙倉さんもこういう気持ちだったのだろうな。