嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
その存在に救われていた
母さんが野沢菜を買いたいと言ったのが始まりで、駅付近で土産を購入する時間を取ることになった。
母さんと父さん、それに花帆が一緒になってどこかに消えた。俺は興味がないので駅構内にあるカフェで時間を潰している。
ガラス窓に面したカウンター席からは大通りを行き交う人の流れが見渡せた。ブラックコーヒーを飲んでいると杏太が通り過ぎる。そのまま店内に入ってきた杏太が俺を見つけて目を丸くした。
「隣いい?」
返事をする前にもう座っている。手には俺と同じアイスコーヒーがある。
「おやきとアップルパイ食べたから苦しい」
杏太は背筋を伸ばして腹の辺りを両手でさすった。
「おれが持ってきた和菓子も食べたのに、よく腹に入るな」
「最近食欲がヤバいんだよなぁ」
そう言われてみると顎のラインがふっくらしたように見える。