嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
人と距離を置くようにしていた俺に容赦なく間合いを詰めてきたのは、両親以外だと花帆と杏太だけ。
そんな彼らのおかげでそれなりに人付き合いができるようになり、遼平だったり、気を許せる友人を作ることができた。
もし杏太が女で花帆が男だったら、俺は杏太を好きになっていたんじゃないかとゾッとするくらいには、杏太は可愛い弟だ。
「花帆から聞いていない?」
「花帆は他人についてベラベラ喋るタイプじゃないからな」
「そっか、そうだね」
杏太は納得して、「あーあ」とうめき声を洩らす。
まだ付き合っていた女性を引きずっているのだろう。
「俺が結婚したら今度は杏太に縁談が流れていくだろうから、いろいろな女性と会ってみるのもいいんじゃないか」
「お見合いねー。それもありっちゃありだよな」
わりと前向きな反応が返ってきた。杏太のこういうポジティブなところは尊敬している。
「ま、俺の話はいいよ。それより仁は沙倉さんに会ってどうだった?」
「変な感じがした」
「変ってなんだよ」
杏太がストローを吸う。ズゴゴッと音がした。腹がいっぱいと言っておきながら飲むのが速い。