嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

「花ざかりは、桜の形に型抜きした桜色の羊羹を、丸くした白餡を芯にして表面を花で取り囲んでいます。花の中心には金箔で花芯部分を表現し、淡い黄緑色の桜の葉が一枚添えられていて、バランスの取れた色合いになっています。一本の枝に盛り固まるようにして咲く桜を忠実に再現していて、美しくもあり儚げで可憐さも表現したと職人から聞きました」

「とても綺麗ね」

　お客さまは目を輝かせ、食い入るように花ざかりを見つめる。

　和菓子は味だけではなく芸術品とも言われる繊細な美しさが魅力のひとつ。だからこそ色合いについてとにかくこだわっている零れ桜や、素人目でも分かる緻密(ちみつ)さが売りの花ざかりは目を引く。

　これらは一人前になった者でも苦戦するくらい綺麗に仕上げるのが難しい。

「あともうひとつが菜の花ですね。外側はその名の通り菜の花をイメージした温かみのある黄色と緑色のそぼろで、中は小倉餡です。そぼろの上に可愛らしく止まっている蝶は白餡の練り切りです。先ほどの華やかなふたつとは違って、素朴さが感じられますよね」

　一通りの説明を終えて、お客様の顔色をうかがう。中腰でショーケースを覗いていたお客さまは上半身を起こして、にっこりと笑った。