嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「ひとつずつ貰えるかしら? あと、道明寺桜餅とどら焼きをふたつずつ」

 頭を下げて「ありがとうございます」とお礼を言う。それから目をぱちくりさせている宮田さんにアイコンタクトを送った。

 宮田さんはまだ動揺を隠せずにいるけれど、丁寧な手つきで生菓子をお盆に載せ、お客さまに数と品物の確認をしてもらった後、梱包作業に移った。

「あなたは店員さんなのかしら?」

「私は工房で働いている者です。といっても今年入社したばかりなので、まだまだ新人なのですが」

 今さらながら、出しゃばってしまったなと身をすくめた。

 これじゃあ宮田さんの立場もないし。

「あら、そうなの。若いのに知識が豊富なのね。あなたが作るお菓子を食べられるのを楽しみにしているわ」

「ありがとうございます……!」

 胸にじんときた。そこまで感動することでもないとは分かっていても、熱いものが込み上げてきて鼻の奥がツンとする。

 気持ちを落ち着かせようと数歩下がり、顔を逸らしたところでギョッとする。

 え! 仁くん!?

 いつ表に出てきたのだろう。カウンターの奥で静かに佇む仁くんの瞳は真っ直ぐ私に向けられている。
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