嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 店員でもないのに勝手なまねをしたからよく思っていないのかも。

「ありがとうございました」

 宮田さんの声にハッとして、箱を手にしたお客さまに慌てて頭を下げる。

 お客さまは「ありがとう。また来るわ」と言って満足そうに微笑んで帰っていった。

 ふう、と息をついて仁くんへと顔を戻す。しかしそこにはもう人の姿はなかった。

「あの、ありがとうございました」

 宮田さんにお礼を言われて首を大きく横に振った。

「とんでもないです! 関係ないのにしゃしゃり出てすみませんでした!」

「いえいえ! もうパニックになっていたので本当に助かりました」

 そう言ってもらえて胸をなでおろす。そこへ接客を終えた長尾さんがやってきた。

「花帆ちゃんありがとね。宮田さん入ったばかりで」

「あの、職人の方なんですよね?」

 長尾さんが私に親しく話しかけたのが不思議だったのか、宮田さんが首を傾げた。

「花帆ちゃんはここの常連中の常連で、とくに桜餅が大好きなのよね。あと、若旦那の幼馴染なんだよ」

「へえええー」

 宮田さんと呼ばれた女性は感嘆の声を漏らした。
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