嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
溢れた想い
 
 夕暮れの気配に包まれた茜色の空を眺めて、陽射しの眩しさに目を細めた。

 花帆と一緒に暮らす前までは夜遅くまで残って作業をしていたので、まだ明るいうちに帰宅する生活は健康的だな、と思う。

 意識して生活リズムを変えようとしたわけではない。ただ家に花帆がいて、部屋でひとり過ごしているのかと考えたら集中力が続かず、それならいっそのこと早く帰宅した方が時間を有効活用できると考えたのだ。

 父親である社長にも『少しは気を抜いて仕事をしたらどうだ』と前々から言われていたし、丁度いい転機だったのかもしれない。

 今日は花帆の意外な一面を見られたいい日だった。

 昔から人懐っこいけれど、やっぱり接客にも向いている。朝霧で作られている和菓子の知識もあるし、いつか遊茶屋のカウンターに立つ花帆を見てみたいものだな。

 もちろんその時は俺が最初に見る。絶対に。

 見るといえば、さっきは花帆の声が聞こえて表に出たわけだけど、俺は普段あまり店に顔を出さないし、店頭に立つ俺を見て花帆も驚いていたから今後は気をつけて行動した方がいいかもな。

 見合いの席から日も経ってそれなりに会話が成立するようになってはきたけれど、よそよそしさはまだ感じる。
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