嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 そもそも花帆がうちにきた理由がそれなのだし。それなのに向上心が強い花帆は料理だけにとどまらず家事の手伝いもしようとする。

「別にできなくても困らないだろう」

 俺なりに気を使って放った言葉だったが、花帆は表情を曇らせた。

「だって、一応、仁くんの奥さんになるんだし……」

 一応という言葉に石を詰め込まれたかのように胸の辺りがずしっと重たくなったけれど、仁くんの奥さんというパワーワードに心は躍らされる。

 花帆といると感情が掻き乱されて心中はいつも忙しい。

「俺も作れるし、母さんだっている。ここを引っ越したとしても人を雇えばいいだろう」

「そうかもしれないけどさ」

 納得がいかないといった不満気な顔に、せっかくやる気になっている気持ちをぞんざいに扱ったのだと気づいた。

 どうフォローしようかと頭を悩ませていると、花帆が上目遣いで訊いてくる。

「私の手料理には期待していない?」

「そういうわけではないけど」

 むしろ食べられるのであれば毎日食べたい。どんなに不味くても、俺のために用意してくれるのならなんでも食べられる。
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