嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 これまで花帆の口から不満は聞いていないが、もしなにか言われたらこの部屋にキングサイズを置くと狭くなるからと言い訳しようと考えている。

 あまりに殺風景なので、花帆は引っ越してすぐに観葉植物をテーブルの上に飾った。それだけで景色が華やかになり、加えて花帆のシャンプーやリンスの香りが部屋に漂って心地いい。

「仕事、少しは慣れたか?」

 寝転びながら、なんとなく声のトーンを落として会話をする。

「ちょっとはね。阿久津さんいい人だし、萌が一緒だから心強いかな」

 体力面もそうだが精神面をやられて辞めていく人間は多い。

 気持ちにまだゆとりがあるならよかった。

「でも……働かせてもらえてうれしいけど、茶屋に行けないのは寂しいかな」

 遊茶屋をオープンさせてから、花帆は最低でも月に一度、多い時は週に一度のペースで来店していた。

 社員になってからは、お客さまを優先させるために控えているようだ。
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