嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「間近で和菓子を作っているところを見られるようになったんだから、もう行く必要はないんじゃないのか?」

「うーん……そういうことじゃないんだよなぁ」

 歯切れが悪くなった花帆の表情をうかがおうと、横向きになって片肘をついた。花帆はチラリと俺を見て、布団に顔を隠そうとする。

 すかさず布団を下へ引っ張り阻止した。

「和菓子じゃなくて抹茶が目当て?」

「それもそうだけど」

 やけにもったいぶる。余計に気になるじゃないか。

 いつまでも口を割らないので、返事をもらうのを諦めて上体を起こし、部屋の照明を落としてアッパーライトだけにした。やわらかなオレンジ色の明かりが部屋のあちこちに影を作る。

「仁くんが」

 不意に発せられた声に「ん?」と花帆を振り向く。
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