嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「それは和菓子限定なのか?」

「え?」

「例えば洋菓子とか、普通の料理とか、そういうときはなんとも思わないのか?」

「料理しているところ、見たことない」

「言われてみればそうだな。それなら次の休みに一緒に料理でも作ってみるか? この家にも調理器具は揃っているけど」

 婚約してから何度か休日はあったのに、恋人らしい時間を一度も過ごしていない。主に花帆が母親と一緒に家事をしたがるのが原因だ。相手にされない俺は、結局工房に出向いて新作を考えたりしていた。

「でも私、本当に料理できないよ」

「俺ができるからいいよ。教える」

「そっか……じゃあ、そうする」

 声音がやわらかくなったように感じた。

 今、どんな顔をしているのだろう。

 花帆はされるがまま、俺の腕のなかで身を小さくしている。

 子供の頃と比べて、あたり前だが大きくなったなと思う。だけど、たやすく押し潰してしまえるほど女性の身体は細くて柔らかい。

 なんて抱き心地がいいのだろう。

 抱きしめたまま寝てもいいだろうか。嫌なら嫌と言うよな?

 自問自答して、艶やかな髪から香る甘い匂いと、肌から伝わる温もりを感じながら目を閉じた。
 
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