嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「そろそろ準備をしよう」

「朝ご飯はいいの?」

 寝坊したので私も仁くんもまだ朝食を済ませていない。

「朝昼兼用でいいだろう」

「でも、せっかく弥生さんが用意して……」

「朝ご飯? 今日はパンだったから、ふたりの分は起きてから作るつもりだったの。だから大丈夫よ」

 それならよかったと胸をなでおろす。

「今日はふたりでご飯作るんだっけ? 楽しそうでいいわね」

 私たちが仲よくしているように感じたのか、弥生さんはにこにこしている。

 実際のところ、婚約関係を結んでいるにも関わらずぎこちない会話ばかりだし、仲良しとは到底言えない状況。

 こんな婚約者でごめんなさい。いろいろと本当に申し訳なくなる。

 材料は事前に仁くんが用意してくれたので、離れに戻ってすぐに調理に取りかかる。

 メニューは野菜カレーだ。調理実習で作った経験はあるけれど、ひとりで最初から最後まで作れと言われたら自信がない。

「カレーが作れるようになれば、少し材料を変えるだけでシチューもハヤシライスもできる。あとは、材料はほとんど同じのまま、作業工程を変えるだけで肉じゃがになる」

「なるほど」

「じゃあまずは俺が手本を見せるから真似してみて」

 じゃがいもやニンジン、玉ねぎを気持ちがいいくらいスパスパッと包丁で切っていく手元を感心しながら見つめた。

 野菜を切っているだけなのに色気を感じるのは何故だろう。
< 59 / 214 >

この作品をシェア

pagetop