嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 長年ひた隠しにしてきたわけだし、仁くんは私の気持ちに気づいていないはず。でもどこかで、気づいたらいいのにと何度も考えたりした。

 変化を求めるばかりで、実際のところは自分から一歩踏み出す勇気はないのに。

「足立さんの様子見てくるから、あとよろしく」

「はい。分かりました」

 萌の方に向かうがっしりとした広い背中を目で見送っていたら、こちらに振り向いた仁くんと視線が絡み合った。

 機嫌が悪そうな鋭い目つきをしていて心臓がひゅっと縮こまる。

 阿久津さんと無駄話をしていたのがいけなかったのかもしれない。

 不真面目だと思われたかな。

 顔を曇らせた私を一瞥して、仁くんは再び作業に没頭した。

 仁くんに幻滅されたかもしれないと考えただけで地面にのめり込みそうなほど気落ちする。

 仕事も恋も、もっと頑張らなければ。

 鉛のように重たくなった心なんとか奮い立たせて、それからはいつも以上に無我夢中で作業に打ち込んだ。

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