嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「俺に彼女がいたってだけで、そんなに驚く話でもないだろ。いつも飄々としているくせに、珍しく固まっちゃって変なの」

「ああ、いや」

 首の後ろに手をやって目を逸らし、杏太から距離を取ってソファに腰掛けた。

「彼女がいるしお見合いなんてはなから興味なかったけど、フリーになった今、俺が誰とどうなろうと問題ないし、花帆との結婚が乗り気じゃないなら俺が代わってあげてもいいけど?」

「……なんだそれ」

 かなりでかくなったけれど、今でも杏太は可愛い弟だと思っている。だけどこの発言は聞き流せない。

「花帆の気持ちをなんだと思っているんだ」

 自分でも驚くくらい低い声が出た。杏太は少し目を丸くする。

「それって、花帆の気持は理解しているって解釈でオッケー?」

「そうじゃない。婚約相手をあっちにしたりこっちにしたり、ころころ変えて振り回すのは可哀想だと言いたいんだ」

 花帆の気持ちを一番知りたいのは俺だよ。

 溜め息を漏らすと、杏太は探るような目でジッと見てきた。

 なんだっていうんだ。
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