嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「それは花帆に確認してみないと分からないんじゃない? 仮に花帆が、仁じゃなくて俺にするって言ったらどうするの?」

「どうするもなにも……」

 すんでのところで声が喉を通っていかなかった。

 花帆の意志を尊重する。それが正解の答え。

 だけど、ふたりが結婚して、仲睦まじい姿を一生見させられるのかと思ったら、呼吸の止まりそうな窒息感に襲われた。

「ウソウソ。花帆はそんな中途半端な真似するような奴じゃないって」

 杏太は涼しげな笑みを浮かべて手をひらひらと振る。

「でも仁って意外と花帆のこと気にかけているんだね」

「あたり前だろう」

「婚約者だから? それとも幼馴染だから?」

「どっちもだ」

「ああ、違った。好きだから? だ」

 直球な問いかけにグッと詰まった。

 これは正直に答えていいものなのか。

 自問自答していると、杏太が「ハッキリしないなぁ」と、また呆れた顔をする。

 九つも下の弟にこんな扱いを受けて情けなく感じ、同時に自分の立ち位置をはっきりさせた方がいいと思って口を開く。

「俺はか――」

「ご飯できたよ~」

 タイミング悪く花帆の陽気な声が響いた。

 俺は花帆が好きだよ、そう宣言しようと決意したところだったのに。
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