嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「そこに寝転がって」

 突っ立ったままの花帆に指示すると、花帆は「え!?」と大袈裟なくらい驚いた。

「自分じゃ貼れないだろう」

「そっか……そうだね」

 渋々といった様子で床にうつ伏せになった花帆の全身を改めて眺めた。

 今夜はどこかのブランドと思われる上下同じ水玉柄のパジャマを身に着けている。その上に遠慮なく跨った。

 半袖から伸びる白くて柔らかそうな腕は、触れてみるとほどよく筋肉がついて意外と締まっている。

「な、なに?」

 花帆の声は上擦っている。

「腕とかは筋肉痛になっていないのかと思って」

「なってないよ」

「そうか」

 服をぺらっとめくった。

「どの辺り?」

「えっと……ここら辺かな」

 花帆は自分の指で痛みのある個所をぐりぐり押す。

「貼る前にほぐしておこうか」

 両手のひらで腰全体を包み込むようにしながら親指の腹で弱めに押してみる。

「あ、もうちょっと強い方がいい」

 動揺するかと思ったのに意外と乗り気だ。それほどまでに身体が疲れているのだろう。

「これくらい?」

「うん。あと、もう少し右」

 遠慮なく細かな指示を出してくる。希望通りに腰をマッサージすると、花帆は気持ちよさそうに「生き返る~」と気抜けした声を出した。
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