嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「ついでだから肩もやろうか? 凝っているだろう」

「いいの?」


「ああ」

「じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 へへっと笑いながら俺に背をむけると、鎖骨まで伸びた髪を左側に流した。

 露わになったうなじが色っぽい。それに洗いたてのさらさらな艶髪からは甘いバニラの香りがして鼻をくすぐる。

 まいった。花帆の色気にあてられて頭がくらくらしてきた。

「綺麗な首筋だな」

「そ、そう?」

 思ったままに言葉を口にすると花帆は少しだけ動揺した。

「ウエディングドレス、似合うだろうな」

「そうだといいんだけどなぁ」

「そろそろ式場と日程を決めないと」

「そうだよね。私、式場とか全然分からなくて」

「よさそうなところのパンフレットを請求したから、時間がある時に目を通してみて」

 いつまでたっても結婚の準備に取りかかろうとしないので、痺れを切らして自分で幾つか探してみたのだ。

「え! ありがとう!」

 うれしそうな表情を浮かべているのが後ろからでも確認できた。
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