嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「やらなきゃって思っていたんだけど、どこから手をつけていいのか分からなくて。ごめんね」

「できれば暑くなる前に挙げたいと思っているんだけど」

「暑くなる前って、もうすぐ五月だし、あと二か月くらいしか猶予がないよ?」

「そうだな。でも親族だけでいいし、日程さえ押さえられれば無理な話ではないはず。それとも花帆は友人をたくさん招きたい?」

「うーん……仁くんは親族だけがいいんだよね?」

「どちらかというとそうだけど、合わせるよ」

「それなら親族だけでいいかな。そこまで友達が多いわけじゃないし」

 無理して俺に合わせているのかもしれない。

 そう感じて顔を覗き込んだのだが、俺の心配をよそに花帆はにこにこしていた。

 よかった。不満はなさそうだ。

 本音を言えば結婚式すらやりたくない。でもそれは花帆に失礼だし、絶対に可愛い花帆のウエディングドレス姿を見たい気持ちはある。

「じゃあそうしよう。大々的にやるとなるとお世話になっている仕事関係の人間を呼ばなければいけないし、そうなると日程に余裕を持たせないといけなくなるからな」

「逆に、そういう方々をお招きしなくて問題ないの?」

「まったく問題ない」

「そういうものなんだ」

 花帆は「ふーん」と不思議そうにした。
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