嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 花帆は時間をたっぷり使ってから遠慮がちに口を開く。

「私、男性経験がまったくなくて。だから、今のがファーストキスで」

 マジか。

 花帆が杏太以外の男と一緒にいるのをこれまで見ていないし、あまり経験豊富ではないと思ってはいたけれど。

 可愛いし、周りが放っておかないだろうから、初めてとは思いもしなかった。

「悪かった。せめてもっと雰囲気のある場所がよかったよな」

 ベタだけれど、夜景の見えるレストランとか、観覧車のなかでとか、思い出になるような演出をするべきだったかも。

「ううん。そういうのはいいの。ただビックリしただけだし」

「いや、よくはないだろう」

「本当にいいの。……初めての相手が仁くんでうれしいから」

 両腕で自身を抱きしめるような体勢になった花帆は、言いながらどんどん肩をすぼめて身を小さくしていく。

「それは、光栄だけど」

 どう反応していいか迷って変な返事になる。

 俺はなにを言っているんだ。
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