嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 花帆は遠慮がちにチラッと俺を見て、子供のようなあどけない顔で笑った。

 あー……可愛い。

 こんな天使のような子を、俺の手で大人の世界に引きずり込んでいいのだろうか。

「私たちって婚約関係を結んでいるから、結婚するまでは恋人っていう認識でいていいのかな?」

 そうか、そうなるのか。

「そうだな」と、相変わらず澄ました顔で受け応えながら、心の中でガッツポーズをする。婚約者より恋人という響きの方が形式張っていなくていい。

 花帆もまんざらでもない顔をしている。

 ふわふわとしたやわらかな頬に手をのばす。親指で唇をなぞると、花帆は薄っすらと口を開けて熱っぽい瞳を向けてきた。

 誘いに乗ってくれた花帆の顎を掴んでキスをする。先ほどよりも強く押しつけると、「んっ」と短い声が吐息交じりにこぼれた。

 得体の知れない感覚が背中を這いあがっていく。ぞわぞわと肌が粟立ち鼓動が速まった。

 慎重に、だけど強引に花帆の口をこじ開ける。僅かな隙間から舌を入れて、逃げ惑う花帆の舌を絡め取った。

 いやらしい水音が頭の奥に響き理性を壊そうとしてくる。
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