嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「熱でもある?」

 恐る恐る聞いてみる。

「ないはずだけど。どうして?」

 耳元で囁かれて背筋がゾクッとした。

「スキンシップが多いから」

「スキンシップが多いと熱があるのか?」

 ふっと空気を振るわすような声がして目を見開く。

 今笑ったよね?

 熱はなくても機嫌はいいのかも。

「ご自由にって言われたから」

 うん、言った。

「これからは遠慮せずにさせてもらう」

 そ、そうなんですか。

 どうしてだか声が出せない。仁くんの胸の中は温かくて居心地がいいけれど、それ以上にドキドキして落ち着かない。

 もぞもぞと身じろぎをすると、仁くんの手が腰からお尻のラインをなぞった。

 ドキドキなんて表現じゃ足りない。心臓が口から飛び出そうだ。

「長引かずに治るといいな」

「あ、ああ、うん」

 そっか。腰を気遣っているんだね。

 やましい考えを一瞬でも浮かべた自分を殴ってやりたい。
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