嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「眠れそう?」

 うーん、と唸る。

 こんな最高に幸せな状況で眠れるわけがない。というか眠りたくない。

 だけど仁くんは疲れているだろうから、迷惑をかけないように私も早く寝なくちゃ。

「目を瞑っていたらそのうち眠れると思う」

「眠たくないならもう少しお喋りでもするか」

 なんて素敵な提案。その言葉でむしろ目が冴えてきた。

 口数の少ない仁くんとは圧倒的に会話不足で、もっといろんな話がしたいと思っていた。

「前にドレッサーが実家にあると言っていたけど、こっちに運び込まないのはこの部屋が狭すぎるせいか?」

 急に現実的な話をはじめたのでキョトンとした。

「ええっと、そうじゃなくて。別になくても困らないし、運び込むタイミングを逃したというか」

「それなら今度、花帆の家に物を取りに行こう。まだ持ってきていないものはあるだろう?」

「あるといえばあるけど、それって仁くんが運ぶの?」

「そうだけど」

「もし怪我でもして、仕事に影響が出たら嫌だよ」

 もしもの可能性を考えて不安になる。
< 96 / 214 >

この作品をシェア

pagetop