嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「こんな時に考えごと?」

 キスをしながら仁くんは器用にお喋りをする。

「んっ、うぅ」

 私はあたり前に会話なんてする余裕はない。

 言葉にならない声を漏らすと、「可愛い」と甘ったるい声で囁かれた。

 可愛い? なにが? どこが?

 完全に冷静さを失った私は、それ以上思考を巡らすことができなくて。

 ただただ注がれる熱い口づけに溺れ、溶けていくように身体から力が抜ける。

 気持ちいい。

 頭の中を、そのひとつだけの感情が支配する。

 いつの間にか後頭部に手が添えられていて、腰の辺りにあった手は私の手を握りしめていた。

 私も仁くんに触れたい。

 本能のままに仁くんの頬に手を添えた。

 女性の肌のようにきめ細やかでつるつるの肌はとても触り心地がいい。うっとりとした夢心地でいると、後頭部から移動してきた手に捕まった。

 仁くんは色っぽい目つきで私を見据えたまま、頬から引き剥がした手のひらにキスをする。

 それからゆっくりと指先に移動して人差し指を食べるように舐めた。

 耐えきれず、「あっ」と声がこぼれ落ちる。

 自分の声なのに初めて聞くような情欲的な声音に恥ずかしくなり、咄嗟に手を引っ込めようとした。

「逃げないで」

 そう言って仁くんは私の指を甘噛みする。途端にゾクゾクッと身体の芯がうずいた。

 もうダメ。頭がおかしくなる。
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