最期の花が咲く前に
その後のお話
あの後、咲那の部屋を片付けていると、たくさんの日記が見つかったと連絡を受けた。
その中には、俺や真奈、葵との日々が沢山綴られていた。
一ページには、咲那に咲いた花の持つ意味が書かれていて、俺達は読みながら笑って、時々泣いたりもした。
あるページには、実は俺や真奈の寝顔を写真に撮っていることや、不安そうなことも読んだ。
俺はそれを読んで、花咲病などの奇病を調べる父と同じ職につこうと考えることとなった。
真奈は医療従事者として働き悩みを抱える人を助けたいと言うようになった。
お互い、それぞれの大学へと進み、成人式も参加した。
どこからどう見ても順風満帆なのかもしれない。大学の奴らに、お前はいいよな。と言われることも少なくなかったから。
でも、心に悲しさを残した咲那をどこかで求めてしまった。
帰ってこない彼女を探していた。
一時期、本当に嫌気がさして休学して迷った時もある。
自暴自棄、そんな事もあったり、なかったり。
それでも、花咲病のせいで死んでしまった君の創った薬で多くの人を助けたい!そんな一心で受験したことを思い出して俺は再び歩き出した。そして今はハル先生や、木井先生の元で学んでいる。それは咲那が亡くなってからまだ二年目のことで、まだ大学に通い続けている時の事だった。
俺と真奈は数ヶ月ぶりにあの公園に向かった。
俺は青いバラの入った花束、真奈はピンク色のガーベラの入った花束を持って、あの頃の思い出を語りながらあの場所に向かった。その日は桜が綺麗に咲くそんな季節だった。
*☼*―――――*☼*―――――
目を覚ますと、そこは死ぬ間際に見えた公園だった。
現実か、非現実か分からなくなっていたが陽の光に透けた体を見るとこれは現実で私は死んでいると理解する。
死ぬ間際に見た公園は今でも綺麗なお花畑としてこの街のシンボルとなっていた。みんなで植えた花や木を植えてからどれだけの月日が経過したんだろう。目を開ける度にそれがよく分からなくなってしまうのだ。
「死んだんだなぁ。」
未だにそれを忘れてしまうことも多い。
目の前には一面に広がった綺麗な桜が咲いていた。
「もう、春かぁ。」
「おい、まてよ〜!走んな!」
聞きなれたそんな声が耳に入る。
「陽汰、」
この桜の木に向かって走る陽汰と真奈の姿を見つける。私は駆け寄るが陽汰の体は私からすり抜けて走っていく。
大人っぽくなった陽汰と、綺麗さが増した真奈。何も変わらない私。
私だけ時が止まったんだと即時に理解した。
桜の木と、花畑の間で二人は立ち止まり
「咲那と、葵」「さーちゃん達ー!」
と懐かしい声で名前を呼ばれる。
「何?」
そう聞こえない声を発して、私は笑う。葵は少し離れたところにいるみたいだった。
「俺、花咲病の研究してんだ。今じゃ治る病気にもなってきたんだぞ。」
「へぇ。凄いねぇ」
「…咲那がいなくなってから一時期俺、よくわかんなくなってたんだけど、やっぱり花咲病を研究することにしたよ。」
「あはは。陽汰らしいね。」
「まだ、咲那の事忘れらんない。」
「まだダメなの?」
そんな真奈の声に陽汰はすぐに答えを返す。
「そうなんだよ。もう二年なのにな。」
二年経つんだと私は少し寂しくなった。
私は早く陽汰に私という存在を心の隅に、おいやって欲しいと思いつつ、このまま忘れないで欲しかったりする。
でも、いつまでも囚われていないで欲しくて、聞こえないであろう言葉を彼に届けようとする。
「もう、いいんだよ。私じゃなくて、もっと大切にできるものを見つけてよ。私はずっと忘れないから。」
「お、レモンの花咲いてるな。」
ちょうど私の居たレモンの木の前に陽汰がやって来る。少しの期待を込めて
「陽汰、ありがとう。これからはまた違う人生を送ってね。」
「咲那…?」
「あれ、陽汰、聞こえたの?まぁそんなわけないか。」
「いるのか?今、声が…」
「いないから、帰りなよ。まったく研究途中で放置してっ!」
「なんか…帰れって言われてる気がする。」
「へぇー。さーちゃんが怒ってるんだよ。研究しろー!って」
「あはは、そうかもな。じゃあ、そろそろ帰るか。また来るよ。」
「じゃあね、さーちゃん!」

二人はそう言って帰っていく。私もそろそろ帰ろっかな。葵の所に。
私達は、いつまでも待っている。みんなが幸せそうに、そして何処か名残惜しそうにここに来ることを。
それまでは二人、いや、三人で待っていよう。
*☼*―――――*☼*―――――
「二人とも、久しぶり。元気そうでよかった。何話そうか」


最期の花が咲く前に 終
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