最期の花が咲く前に
1章、そんなのあるわけないよね
「ばいばーい。またね~」
…ふー。今日も終わったぁー。陽汰早くこないかな。
「ごめん咲那!待ったよな!」
はぁ、と息を整えて陽汰はそう告げる。
「待ったよ!今日真菜居ないんだから!」
陽汰を困らせるのは好きだ。慌てる表情が、なんとも言えないが強いて言うならば、面白い。
「まー、帰ろっ。クレープ奢ってよー。そしたら、許したげる!」
「えー、分かったよ…しゃーないなぁ。」
帰り道はまだ同校の生徒がいっぱいいる。明日から夏休み!ってことで気分が高鳴っているんだろう。
私もその一人だ。楽しみじゃない訳ないよ!三十日もだもん!やった!
鼻歌交じりに歩いていると、陽汰が
「そんなに夏休み嬉しいの?いいねぇ」
と少しいじけた様子だった。
「なんで?逆に嬉しくないの?贅沢だねー」
「だってさ、みんなと会いにくくなるだろ?咲那にも会えないし」
そんなことを言うので、思わず
「はぁ?」
と素っ頓狂な声が出てしまった。だって、私と会いにくくなるから?え、嫌なのか…
嬉しいし。…陽汰のばか…。
「ばっかだなぁ!ほんとに!会いたきゃ会えるでしょ?!だって家隣だよ?暑さで頭おかしくなったの?」
そう、私と陽汰は家が隣同士の幼なじみなんだ。なのに、何を言ってるんだこやつ。。

「えっ、会いたきゃ会っていいんすか。ラッキー」
「当たり前だろぅ!」
「勉強教えてください。咲那様…ピンチです。赤点ギリギリでしたぁ。」
なんて、バカみたいな会話をしているうちに、クレープ屋さんの前のとおりまで来た。信号にはまる。
ふと、隣の電気屋のテレビが目に入る。

ー奇病とは。ー
そんな題材のニュースだった。最近、世界各地で奇病が報告されるようになったらしい。誠のお父さんの友人も奇病になったらしく、政治のひとつとして奇病に対する政策を作ろうと励んでいる。

「ねえ、陽汰?奇病ってさ、ホントにあるのかなぁ。」
「知らんけど、あるんじゃないかな。父さんが実際に見てるし。」
「まあそっかぁ。なったら困るけどさ、なる訳ないから、危機感ないよね(笑)」
「そりゃしょうがないよな。でも、なりたくは無いからこのままでいいだろ。」
「そうだよね~あ、青だ!クレープ!早く早くっ」
「子供か(笑)走るなー。」
「いちごチョコクレープと、バナナチョコクレープで。」
「六百九十円です。」
「いくら?あー了解。…お願いします。」
「千円お預かりします。」
店員さんと、陽汰のやり取りは耳に入らない。私は慣れた手つきで作られるクレープをずっと見ていた。
あのふんわりと甘い生地が好きなんだ。あぁ、食べたい…。
「いちごチョコクレープと、バナナチョコクレープです。はいっ」
「ありがとうございます!」
美味しそ~!いただきますっ!
「ん~!美味しい!あ、はい。陽汰のね。」
「好きなやつだ。ありがと。覚えてたんだ」
「ん、ほぼへてた。(おぼえてた)」
「ぷっ、詰め込みすぎだって。ハムスターみたいだわ。」
スマホを私の方に向けて、カシャッっと、一枚写真を撮ってくる。
「んー!…っもう!撮らないでよー。恥ずかしいやつだわ。。」
「…み、見てみて、これ…ふっ…」
肩を小さく震わせながら見せてくる。めっちゃウケてる。
「消しといてよ。それ。。」
「やだね。消すもんかっ(笑)」
「あーあ、ほんとに奢ってくれるから、まこのこと、優しいなぁって思ってたのに。今ので印象ガタ落ちだからね?」
「わー!消す消す、消すから!許して!」
といいつつ、いつも消してないのは知ってる。知らないふりしとこ。。
「はい!消しました!」
「よろしい!」
クレープを食べきり、私達は帰路を辿る。
「もしさ、私が奇病になったら、どうする?」
「えーどうしよかな。わかんない。」
「わかんないんかい。まぁ、なんかしてよ(笑)」
「了解(笑)」
話が途絶える。コツコツとローファーの音が住宅街を木霊する。
そんな静寂を陽汰が終わらせる。
「…あの、さ、」
「ん?どうかした?」
「いや、なんでもない。あっ見てみて、これ咲那に似てるわ。」
といってスマホの画面を見せてくる。そこには、ハムスターのキャラクターが映し出されていた。
「は、ハムスターって、、またいじってるし!もうー!」
「あっはは、可愛いなぁこのキャラ。(笑)」
煽ってるわ。これ。。
「あーはいはい。着いたので、帰りマース。じゃあね?」
「着いちゃったかぁー。しゃあない。一旦帰るか。」
「またLimeで。てか遊ぶ?この後」
「いいよー。じゃ、着替えてくる。」
「了解!じゃーね。」
いつも通り、日常は過ぎていった。陽汰と遊んで、真菜とも遊んで、楽しい日常。
そんな日常に、ヒビが入るなんて誰も知らないから…
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