最期の花が咲く前に
2章、発覚
「相変わらず、あっついなぁぁ。」
「ほんとにね~。どうにかなんないかな、」
今日は真菜とお勉強会をしていた。勉強にも飽きたので近くのコンビニへ行くことにした。
外は暑すぎて、すぐに帰りたくなる。
「アイスゥ…レモン味…あるかなぁ。」
「さーちゃんレモン好きだね~。レモンになっちゃうよ。」
「美味しいから仕方ない。レモン最高。」
「はぁ。いちごアイス求めるわ。」
「いちごも美味しいよねぇ。あっつぃ。」
~♪♩♬
「いらっしゃいませー!」
暑さなんて忘れるような涼しさ。ここに住みたいと思ってしまう。
「アイスと飲み物買って帰ろ。」
「はぁい。」
私たちはお目当てのものを見つけて、すぐ帰ればいいのに、雑誌をみてその場にとどまっていた。
「そろそろ行く?」
一冊読み切ったくらいで、真菜にそう声をかける。
「いいよ。ちょうど読み終わったし。」
「じゃ、帰ろか。」
お会計を済ませて、私達は再び来た道を辿る。
突然、腕に痛みを感じた。
「いたっ、」
「どうかした?」
「な、なんでもない。」
なんだろう。腕だけじゃなくて、所々に痛みを感じる。
不思議な痛みを感じつつ、家へ帰る。
帰った時にはその痛みは無くなり、アイスを食べるのであった。
「じゃあ、そろそろ帰るね。ありがとう。」
「うん。またね。」
「帰ったら連絡するね。ばいばーい。」
真菜が帰ってしばらくすると、体が鉛のように重くなった。
「だる…。なんでぇ?」
無駄な思考を働かせるのも嫌になって、意識を遠くにとばす。
「…な、さな、咲那!やっと目覚ましたわ。」
「ん、よく寝たぁ。ママ?どうしたの?」
「何があったも何も!目、覚まさないから。」
「ごめん。なんか怠くて。」
「まぁ。暑いからかしらねぇ。下、先行ってるから、早く来なさい。」
「はぁい。」
蒸し暑いベットの上から起き上がる。
ふと、鏡に映った自分が目に入る。その姿を見て私は、
「なに、これ…」
頭で処理が追いつかなくて、私は階段をかけ下りる。
「ま、ママ、どうしよう。腕に、は、花が。」
その姿とは、腕に一輪の花が咲いている驚きの姿だった。
その花は、多分桜。日本らしいなぁ。ってそんなこと言ってる場合じゃない。
ママは大慌て。
「は、早く病院行きましょ。パパに電話しておくから、準備してらっしゃい!」
言われるがまま、私の体はあやつり人形にでもなったよう。感情が追いつかない今、用意は勝手に働く体が行っている。
それからは、映画のワンシーンみたいで私はそれを見るお客さんになった気分。
病院で、その腕を見せて、簡単な検査をした。そして、目の前にいる医者は告げる。
「花咲病です。」
花咲病、治療法の見つからない奇病で、なってしまえば三年持たずに死んでしまう。
「そんな…なんで咲那が」
絶望する両親と姉。
私は、何故か実感が湧かず、唖然とするだけだった。
医者が今後の説明だのなんだの言ってるが、何も耳に入らない。
ただ、一つだけ聞きたかったから、私は医者に問う。
「私は、いつまで生きられますか。」
と。医者はパソコンを見て、数分考えるとやがて口を開く。
「咲那さんの、様子だと…もって三年だと…」
三年。今十六歳、私は二十歳というひとつの節目を越えられないのか。
自然と涙が零れた。この涙は、絶望だけでなく、不安も多く含まれている。
「今後の簡単なスケジュールです。担当医の方は次に来てもらった際に紹介します。」
気が付けば、家に帰ってきていた。家族は、放心状態に近いため、話しかけられない。
でも、誰かがいて欲しくて。
「ひなたぁ。」
と、電話をかける。
「どうした。咲那?」
「来て。陽汰…」
「…すぐ行く。」
私も外へ出て陽汰を待つ。
「咲那、やっぱり泣いてるよな。どうした…?」
陽汰の声を聞くと、涙がたくさん浮かんできて、思わず陽汰に倒れ込むようにして抱きつく。
「陽汰、私、死んじゃうよっ、どうしよぉ。ひなたぁ。。」
「ん、よくわかんないから、ゆっくり話して…?公園行くか。」
*☼*―――――*☼*―――――
公園に着いて、しばらくブランコに座ったまま無言が続いた。
「腕、どうしたん?怪我したのか?」
やっぱり、そこだよね。。
「取るね。これ。」
「怪我なら、取っちゃだめだろ?」
「っ、怪我じゃ、ないの。」
私は腕にまいた包帯をするりと外す。
桜の花が咲いている腕が陽汰に見られる。なんて言われるのかな。気味悪がられるかな。
「桜?綺麗に咲いてるな。」
「綺麗?嘘つかないでよ。」
「あぁ…花咲病、か。」
陽汰が小さくその名前を口にする。それを聞いて再び涙が目に溜まる。
「うん。そうだよ。…私ね、あと三年しか生きられないんだって。」
「そうか…。」
陽汰は急に黙ってしまった。顔を見たかったが、怖くて見れなかった。
「わり、飲み物買ってくる。」
駆けるように自販機へ向かっていく誠。一人になって、不安は増加する。
ぴたっ。と頬に何が当たる。
「ひゃっ、冷た~。って、レモンスカッシュだ。ありがと…陽汰ってなんで陽汰が泣いてんの…?」
「ごめん、なんか止まんないんだよ。」
「…ふはっ、相変わらず、すぐ泣くとこは変わんないんだね。」
「うるせ。ほっとけよ…」
かぁっと顔が赤くなる陽汰。
「ふふ、陽汰がいて良かった。ありがとね。」
「いいえ…。なんもしてませんけど。…甘、うわ、微糖買ってるし…ミスったー」
「なにやってんの~もう、甘いの苦手なのにミスるとか」
「簡単に言うなって、あまぁ!」
陽汰がミルクコーヒーと戦っているあいだ、その様子が面白くて、気が和らいだ。
「、やっと笑った。」
ふっ、と小さく微笑む陽汰。
「だって、面白いんだもん、あはは」
「そんな馬鹿にすんなよ(笑)…まぁ、いいけど。」
コーヒー缶を再び傾けて一気にコーヒーを飲み干して、またこちらを向いて
「俺はその桜、綺麗だなって思ったよ。」
なんて言うんだ。ありがとうって言おうとしたら
「だー!あめぇ!水、水!」
「っ、あっはは、ばっかだなぁほんとに。はい、これ飲む?」
私のレモンスカッシュを差し出すと、
「いいの?サンキュ!」
あっという間残っていた半分を飲み、一息ついたようだ。
飲んでいるところを見て、これ間接キスじゃんと思い、恥ずかしくなった。
「今度から気をつけます…。ありがとう。」
「いいえー。美味しかったですか?」
「はい。レモン味が美味しかったです…。」
しばらく話しているとすぐに辺りは暗くなる。
「あ、もうこんな暗くなってきちゃったんだ。」
「ほんとだ。そろそろ、帰んなきゃな。」
「ありがとね。綺麗だなんて思わなかったよ。」
「そうか?綺麗だろ。普通に。」
「ふふ。ありがとう。また、Limeするね。」
「うん。分かったよ。…あと、なんかあったらすぐ言えよ。一人で考えるすぎるな。」
「心配してんの?ありがとう。」
「心配じゃない訳ないだろ〜。」
そう言いながら、髪をわしゃわしゃしてくる。
「あーもう!やめて~(泣)」
「ふはっ、またな。」
「べーっだ!ばいばい!」
…ぱたん。と扉が閉まる。
自然と頬が緩んだ。陽汰がいてくれて、良かった。不安でいっぱいだった気持ちが少し和らいだんだ。
「ありがとう。陽汰。」
一人の部屋にその言葉は溶けて消える。
スマホを開くと、陽汰から一件のメッセージが届いていた。
ーなんかあったら、すぐ言ってね。とんでくから。ー
「はいはい、ありがとう。」
ふっと再び笑みが零れる。了解スタンプを送って、真菜のチャットを開く。
ー真菜、話があるんだけど、電話できるかな?ー
すぐに既読がつく。
ーいいよd(˙˙* )ー
〜♬
「もしもし、真奈?」
「はいはーい。どうした?」
「あのね、私、花咲病になっちゃった。」
「…っえ。花、咲病?」
「うん。ごめんね。」
「お母さんの次は、さーちゃんが、なんで。」
ほぼ聞こえない声で真菜が喋っている。真菜は二年前にお母さんを花咲病で失っている。
私もなってしまった、ということは長くは生きられないということを知っているから、
「さーちゃん、なんの花だった?」
「桜の花。腕に咲いてるよ。」
「腕…。目じゃないの…?」
目?目ではない。
「目じゃないよ?なんで?」
「…花咲病の、初期症状は、一般的に目に現れるとされてるの。なのに、腕…。腕はかなり後に現れるはずなのに…。」
「変わってる…ってこと?」
「うん…なんでかは分からないけど、さーちゃん、死なせないからね。絶対。」
「真菜が死なせないの?あはは、ありがとう。」
「当たり前だよ…さーちゃんまで、死んじゃダメ。」
声が震えている。電話ごしに泣いているのがわかった。
「真奈?私ね、死なないよ。絶対に生きるんだ。」
私は、死なない。花咲病なんて、治してやる。と強く誓った。
陽汰や、真菜と一緒にいたい。まだ、やりたい事もいっぱいあるんだ。
「さーちゃん、辛いことあったら、絶対言ってよ?一人で悩む必要ないよ。」
「ありがとう。真菜がいてくれて良かった。」
「私、花咲病のことなら知ってる事いっぱいあるから、なんでも聞いてね。」
「うん。ありがとう。また、学校でね。」
「さーちゃん、またね。大好きだよ。」
「ありがとう~。私も真菜のこと、だーいすき!」
「えへへ~。じゃあね。」
「ばいばい。」
プツッと通話が終わる。
ぽすっとベットに倒れ込む。流れてきそうな涙を必死に堪えて、私は天井に拳を向ける。
「絶対、死なないんだから。」
明確に、私はその意志を吐き出した。負けない。絶対に。
負けるもんか。
ガチャリと部屋の扉が開く。
「咲那、ご飯だよ。食べれる?」
「うん。ありがとう、雪ねえ。」
「…なんか、随分と生き生きしてるね、どうしたの?」
「私ね、絶対死なないよ。ずっと生きるよ。だから、心配しないでね!」
「…ふっ、わかった。それ、お父さんとお母さんにも言ってあげて?」
「はーい。お腹空いたぁ。」
「咲那、ご飯食べれる?」
「食べられるよ!お腹空いたもん!あ、あとさ」
「なぁに…?」
「私、絶対死なないよ!だから、心配しないでね、パパ、ママ!」
二人は驚いたような顔だったけれど、
「そうか。じゃあ、頑張るんだぞ。パパも、ママも、応援するからな。」
パパは優しく頭を撫でてくれた。
「咲那、美味しいご飯、いっぱい作ってあげるからね。頑張ろうね。」
瞳に輝くものを浮かべながらそうに言うママ。
家族に心配もかけたくない。
「頑張る。だから、よろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀する。だって、これからどれだけ迷惑をかけるかも分からないから。
ご飯を食べ終わって自室で一人、花咲病について調べていた。
本当に目から花が咲くケースがほとんど、というか、全部らしく私は初ケースだと知った。
「なんでなの?うーん…」
考えても分かるわけがないから、思考回路を停止させる。
「いいや。寝よう。」
色々あって疲れてしまった。明日は、真菜と陽汰と学校行って、調べ物するし、早く寝よ。
「絶対負けない。」
静かに決意を固めて、夢の中へと沈んで行った。
「ほんとにね~。どうにかなんないかな、」
今日は真菜とお勉強会をしていた。勉強にも飽きたので近くのコンビニへ行くことにした。
外は暑すぎて、すぐに帰りたくなる。
「アイスゥ…レモン味…あるかなぁ。」
「さーちゃんレモン好きだね~。レモンになっちゃうよ。」
「美味しいから仕方ない。レモン最高。」
「はぁ。いちごアイス求めるわ。」
「いちごも美味しいよねぇ。あっつぃ。」
~♪♩♬
「いらっしゃいませー!」
暑さなんて忘れるような涼しさ。ここに住みたいと思ってしまう。
「アイスと飲み物買って帰ろ。」
「はぁい。」
私たちはお目当てのものを見つけて、すぐ帰ればいいのに、雑誌をみてその場にとどまっていた。
「そろそろ行く?」
一冊読み切ったくらいで、真菜にそう声をかける。
「いいよ。ちょうど読み終わったし。」
「じゃ、帰ろか。」
お会計を済ませて、私達は再び来た道を辿る。
突然、腕に痛みを感じた。
「いたっ、」
「どうかした?」
「な、なんでもない。」
なんだろう。腕だけじゃなくて、所々に痛みを感じる。
不思議な痛みを感じつつ、家へ帰る。
帰った時にはその痛みは無くなり、アイスを食べるのであった。
「じゃあ、そろそろ帰るね。ありがとう。」
「うん。またね。」
「帰ったら連絡するね。ばいばーい。」
真菜が帰ってしばらくすると、体が鉛のように重くなった。
「だる…。なんでぇ?」
無駄な思考を働かせるのも嫌になって、意識を遠くにとばす。
「…な、さな、咲那!やっと目覚ましたわ。」
「ん、よく寝たぁ。ママ?どうしたの?」
「何があったも何も!目、覚まさないから。」
「ごめん。なんか怠くて。」
「まぁ。暑いからかしらねぇ。下、先行ってるから、早く来なさい。」
「はぁい。」
蒸し暑いベットの上から起き上がる。
ふと、鏡に映った自分が目に入る。その姿を見て私は、
「なに、これ…」
頭で処理が追いつかなくて、私は階段をかけ下りる。
「ま、ママ、どうしよう。腕に、は、花が。」
その姿とは、腕に一輪の花が咲いている驚きの姿だった。
その花は、多分桜。日本らしいなぁ。ってそんなこと言ってる場合じゃない。
ママは大慌て。
「は、早く病院行きましょ。パパに電話しておくから、準備してらっしゃい!」
言われるがまま、私の体はあやつり人形にでもなったよう。感情が追いつかない今、用意は勝手に働く体が行っている。
それからは、映画のワンシーンみたいで私はそれを見るお客さんになった気分。
病院で、その腕を見せて、簡単な検査をした。そして、目の前にいる医者は告げる。
「花咲病です。」
花咲病、治療法の見つからない奇病で、なってしまえば三年持たずに死んでしまう。
「そんな…なんで咲那が」
絶望する両親と姉。
私は、何故か実感が湧かず、唖然とするだけだった。
医者が今後の説明だのなんだの言ってるが、何も耳に入らない。
ただ、一つだけ聞きたかったから、私は医者に問う。
「私は、いつまで生きられますか。」
と。医者はパソコンを見て、数分考えるとやがて口を開く。
「咲那さんの、様子だと…もって三年だと…」
三年。今十六歳、私は二十歳というひとつの節目を越えられないのか。
自然と涙が零れた。この涙は、絶望だけでなく、不安も多く含まれている。
「今後の簡単なスケジュールです。担当医の方は次に来てもらった際に紹介します。」
気が付けば、家に帰ってきていた。家族は、放心状態に近いため、話しかけられない。
でも、誰かがいて欲しくて。
「ひなたぁ。」
と、電話をかける。
「どうした。咲那?」
「来て。陽汰…」
「…すぐ行く。」
私も外へ出て陽汰を待つ。
「咲那、やっぱり泣いてるよな。どうした…?」
陽汰の声を聞くと、涙がたくさん浮かんできて、思わず陽汰に倒れ込むようにして抱きつく。
「陽汰、私、死んじゃうよっ、どうしよぉ。ひなたぁ。。」
「ん、よくわかんないから、ゆっくり話して…?公園行くか。」
*☼*―――――*☼*―――――
公園に着いて、しばらくブランコに座ったまま無言が続いた。
「腕、どうしたん?怪我したのか?」
やっぱり、そこだよね。。
「取るね。これ。」
「怪我なら、取っちゃだめだろ?」
「っ、怪我じゃ、ないの。」
私は腕にまいた包帯をするりと外す。
桜の花が咲いている腕が陽汰に見られる。なんて言われるのかな。気味悪がられるかな。
「桜?綺麗に咲いてるな。」
「綺麗?嘘つかないでよ。」
「あぁ…花咲病、か。」
陽汰が小さくその名前を口にする。それを聞いて再び涙が目に溜まる。
「うん。そうだよ。…私ね、あと三年しか生きられないんだって。」
「そうか…。」
陽汰は急に黙ってしまった。顔を見たかったが、怖くて見れなかった。
「わり、飲み物買ってくる。」
駆けるように自販機へ向かっていく誠。一人になって、不安は増加する。
ぴたっ。と頬に何が当たる。
「ひゃっ、冷た~。って、レモンスカッシュだ。ありがと…陽汰ってなんで陽汰が泣いてんの…?」
「ごめん、なんか止まんないんだよ。」
「…ふはっ、相変わらず、すぐ泣くとこは変わんないんだね。」
「うるせ。ほっとけよ…」
かぁっと顔が赤くなる陽汰。
「ふふ、陽汰がいて良かった。ありがとね。」
「いいえ…。なんもしてませんけど。…甘、うわ、微糖買ってるし…ミスったー」
「なにやってんの~もう、甘いの苦手なのにミスるとか」
「簡単に言うなって、あまぁ!」
陽汰がミルクコーヒーと戦っているあいだ、その様子が面白くて、気が和らいだ。
「、やっと笑った。」
ふっ、と小さく微笑む陽汰。
「だって、面白いんだもん、あはは」
「そんな馬鹿にすんなよ(笑)…まぁ、いいけど。」
コーヒー缶を再び傾けて一気にコーヒーを飲み干して、またこちらを向いて
「俺はその桜、綺麗だなって思ったよ。」
なんて言うんだ。ありがとうって言おうとしたら
「だー!あめぇ!水、水!」
「っ、あっはは、ばっかだなぁほんとに。はい、これ飲む?」
私のレモンスカッシュを差し出すと、
「いいの?サンキュ!」
あっという間残っていた半分を飲み、一息ついたようだ。
飲んでいるところを見て、これ間接キスじゃんと思い、恥ずかしくなった。
「今度から気をつけます…。ありがとう。」
「いいえー。美味しかったですか?」
「はい。レモン味が美味しかったです…。」
しばらく話しているとすぐに辺りは暗くなる。
「あ、もうこんな暗くなってきちゃったんだ。」
「ほんとだ。そろそろ、帰んなきゃな。」
「ありがとね。綺麗だなんて思わなかったよ。」
「そうか?綺麗だろ。普通に。」
「ふふ。ありがとう。また、Limeするね。」
「うん。分かったよ。…あと、なんかあったらすぐ言えよ。一人で考えるすぎるな。」
「心配してんの?ありがとう。」
「心配じゃない訳ないだろ〜。」
そう言いながら、髪をわしゃわしゃしてくる。
「あーもう!やめて~(泣)」
「ふはっ、またな。」
「べーっだ!ばいばい!」
…ぱたん。と扉が閉まる。
自然と頬が緩んだ。陽汰がいてくれて、良かった。不安でいっぱいだった気持ちが少し和らいだんだ。
「ありがとう。陽汰。」
一人の部屋にその言葉は溶けて消える。
スマホを開くと、陽汰から一件のメッセージが届いていた。
ーなんかあったら、すぐ言ってね。とんでくから。ー
「はいはい、ありがとう。」
ふっと再び笑みが零れる。了解スタンプを送って、真菜のチャットを開く。
ー真菜、話があるんだけど、電話できるかな?ー
すぐに既読がつく。
ーいいよd(˙˙* )ー
〜♬
「もしもし、真奈?」
「はいはーい。どうした?」
「あのね、私、花咲病になっちゃった。」
「…っえ。花、咲病?」
「うん。ごめんね。」
「お母さんの次は、さーちゃんが、なんで。」
ほぼ聞こえない声で真菜が喋っている。真菜は二年前にお母さんを花咲病で失っている。
私もなってしまった、ということは長くは生きられないということを知っているから、
「さーちゃん、なんの花だった?」
「桜の花。腕に咲いてるよ。」
「腕…。目じゃないの…?」
目?目ではない。
「目じゃないよ?なんで?」
「…花咲病の、初期症状は、一般的に目に現れるとされてるの。なのに、腕…。腕はかなり後に現れるはずなのに…。」
「変わってる…ってこと?」
「うん…なんでかは分からないけど、さーちゃん、死なせないからね。絶対。」
「真菜が死なせないの?あはは、ありがとう。」
「当たり前だよ…さーちゃんまで、死んじゃダメ。」
声が震えている。電話ごしに泣いているのがわかった。
「真奈?私ね、死なないよ。絶対に生きるんだ。」
私は、死なない。花咲病なんて、治してやる。と強く誓った。
陽汰や、真菜と一緒にいたい。まだ、やりたい事もいっぱいあるんだ。
「さーちゃん、辛いことあったら、絶対言ってよ?一人で悩む必要ないよ。」
「ありがとう。真菜がいてくれて良かった。」
「私、花咲病のことなら知ってる事いっぱいあるから、なんでも聞いてね。」
「うん。ありがとう。また、学校でね。」
「さーちゃん、またね。大好きだよ。」
「ありがとう~。私も真菜のこと、だーいすき!」
「えへへ~。じゃあね。」
「ばいばい。」
プツッと通話が終わる。
ぽすっとベットに倒れ込む。流れてきそうな涙を必死に堪えて、私は天井に拳を向ける。
「絶対、死なないんだから。」
明確に、私はその意志を吐き出した。負けない。絶対に。
負けるもんか。
ガチャリと部屋の扉が開く。
「咲那、ご飯だよ。食べれる?」
「うん。ありがとう、雪ねえ。」
「…なんか、随分と生き生きしてるね、どうしたの?」
「私ね、絶対死なないよ。ずっと生きるよ。だから、心配しないでね!」
「…ふっ、わかった。それ、お父さんとお母さんにも言ってあげて?」
「はーい。お腹空いたぁ。」
「咲那、ご飯食べれる?」
「食べられるよ!お腹空いたもん!あ、あとさ」
「なぁに…?」
「私、絶対死なないよ!だから、心配しないでね、パパ、ママ!」
二人は驚いたような顔だったけれど、
「そうか。じゃあ、頑張るんだぞ。パパも、ママも、応援するからな。」
パパは優しく頭を撫でてくれた。
「咲那、美味しいご飯、いっぱい作ってあげるからね。頑張ろうね。」
瞳に輝くものを浮かべながらそうに言うママ。
家族に心配もかけたくない。
「頑張る。だから、よろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀する。だって、これからどれだけ迷惑をかけるかも分からないから。
ご飯を食べ終わって自室で一人、花咲病について調べていた。
本当に目から花が咲くケースがほとんど、というか、全部らしく私は初ケースだと知った。
「なんでなの?うーん…」
考えても分かるわけがないから、思考回路を停止させる。
「いいや。寝よう。」
色々あって疲れてしまった。明日は、真菜と陽汰と学校行って、調べ物するし、早く寝よ。
「絶対負けない。」
静かに決意を固めて、夢の中へと沈んで行った。