きっと、月が綺麗な夜に。
「そうそう。あのおしゃべりの武明先生がね、クロミの面白い話をしてくれたんだけど」

「クロミ?おれが2メートル以上近づけたことないあの?どんな話?」


すましてうん、と反応した千明と、興味津々に目を輝かせた貴人に、早速今日聞いたニューストピックス『トメ子さんとクロミ』を二人に広めようと僕は落語家・武明先生を自身に憑依させようと息を吸った時。


「あ!クロミ!」


アスファルトのど真ん中。まあ、この小さな島はほとんど車が通ることがないから狭いし、そこらじゅう猫が転がっていて夕涼みし始めているんだけれど。

それでも分かる。短い黒い毛並み、珍しい金色とブルーのオッドアイ、あまり愛想の良くない凛とした風貌のその猫。


「なおーん」


想像していたより覇気のない鳴き声は、初めて聞いたが確かに、この島でツンデレ猫として通った、噂のクロミから発せられた声だ。

そして、武明先生が聞いたという、トメ子さんの話の通り、確かに、左前足には赤い布……というか大きな赤い花柄のスカーフが巻かれている。


「……わぁお。トメ子さん、武明先生。ロマンのある話、現実じゃん」


思わず足を止めた僕と、多分同じ気持ちの千明、今後の展開にファンタジーな思想を持って目を輝かせる貴人に、同じような鳴き声で、クロミはなおん、と短く鳴いて、すく、と立ち上がった。
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