きっと、月が綺麗な夜に。
育児放棄状態だった数ヶ月間、僕は生きる為に、島の外から移住してきて何でも屋を営む外部のお兄さん……りょーちゃんのところへ頻繁に行き、ご飯を貰い、溜めていた洗濯物を洗ってもらっていた。

「どうしたの?大丈夫か?」と聞いてくれる若干20歳のりょーちゃんに、幼い僕は「お母さん、忙しいから」と、いつもそれしか言わなかった。言えなかった。

母を悪く言われたくなかったからだ。幼い僕は愚かで無知だったから、それでも母を愛していたし、母がいつか愛してくれると信じていたのだ。

来る日も来る日も、本土に男を作ってたまに荷物を取りに帰る母の帰りを、僕は暗闇の中寝ることなく、膝を抱えて待っていた。


その生活が終わりを告げたのは、今日のように台風が来るとニュースで流れる日だった。

久しぶりに帰ってきた母は、残り少なくなっていた母の荷物の残りをかき集めキャリーケースへ詰め込み、また、家を出ようとしていた。


「お母さん、次はいつ帰ってくるの?行っちゃ嫌だよ」


これが最後の別れだとどこかで察した僕は、母のワンピースの裾を掴み、離さない。
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