きっと、月が綺麗な夜に。
目を覚ますと、診療所の窓から円みを帯びた温かな日差しがベッドに差し込んでいた。
台風が通り過ぎて、穏やかな日常が島に戻ってきていると告げる朝。
ベッドに投げ出した縫っていない方の、感覚がある左腕には、夢で感じた温もりと柔らかさがリアルにある。
そちらにゆるりと目線を移すと、そこには、見覚えのある白くてやわっこい手が、僕の手をぎゅっと握っている光景が飛び込んだ。
「み、や……?」
「虎治郎くん起きたの?腕はどう?」
声がかかり視線を上げると、武明先生の奥さんが午前診療のための準備をしているところだった。
「麻酔がまだ効いてるみたいで全然大丈夫です。あの、それより、この状況は?」
「ああ、美矢ちゃん?台風が通り過ぎてすぐ、4時くらいかな、すっごい焦った顔でうちに来たと思ったらガッサガサの声で入れてって言うから。愛されてるね、虎治郎くん」
美矢が焦ったところなんて見たことないから想像出来ないけど、僕の手を握ったままベットに突っ伏した美矢がいるのは現実だ。
寝ないで待っていてくれたの?僕が激しい歌でも歌っててって言ったから、喉からして歌い続けたの?なんて、疑問がぽわぽわと浮かんでは、心に温もりを与えてゆく。