きっと、月が綺麗な夜に。
僕は自転車から降りると、こちらへ向かってくる2人と合流する速度を早めるために、早足であちら側へ向かった。


「お疲れさま。今日とらの好きな里芋の煮っころがし作るって、りょーちゃんが張り切ってたよ」

「本当?楽しみだね。美味しいんだよ、りょーちゃんの煮っころがし」


出会い頭に兄妹みたいな会話をしだした僕たちを見て、ケンゴは「ぶは」と噴き出した。


「何で笑ってるの?」

「いや別に、歳上なのに2人とも可愛いなって」


ほんの数時間前まで僕たちの関係性にライバル心を燃やしていた少年とは到底思えないその一言に、僕は「ええ?」と短く声を上げてしまう。


「それより、どうだったの、デート?」

「はあ?なんの事だか。俺と美矢ちゃんはクリエイター仲間だから。そういう冷やかし止めくれる?」


自分が、さっきデート、なんて嬉しそうに言っていたのに、ケンゴはすっかり忘れたかのように生意気に語尾を上げてふふん、と笑う。

強がっている感じでもないし、一体、ほんの2時間程の間にどんな心境の変化があったというんだ。
思春期の心は時に、秋の空より気ままで激しい。夏のゲリラ豪雨くらい、予測不可能だ。
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