きっと、月が綺麗な夜に。
美矢が歌い出したのは、有名な女性シンガーの、時を重ねてもあなたを想う気持ちは切ない、という女性心を歌ったバラードナンバーだ。

いつもの鼻腔に響かせて出す円みのある歌声とは違って、今回は喉の奥を緩めたり開いたり、空気を多く使ってハスキートーンを混ぜてその曲を大事に歌う美矢。

島の柔らかな時間の流れとか、匂いとか、太陽が傾きかけた夕暮れの色、美矢の歌声に吸い寄せられたかのように集まる数匹の猫とか、全部が、僕の心に刺さってきて、不思議と目頭が熱くなる。

6歳以降使われていない涙腺からは涙は流れてはくれないけど、美矢の歌声や、その魅力を映像に落とし込んだケンゴの想いに心が鷲掴みされて、優しく揺り動かされていく。


曲のフレーズの最後の、あなたは私を想っていますか、と問う『You love』という言葉が、メロディや歌い方で『ゆら、ゆら』とも聴こえるようなその歌詞がぐさりと刺さり、心臓が大きくポンプした。

この島に、気まぐれでも何でも美矢が来てくれてよかった。美矢を好きになれてよかった。なんて、たった1本の動画に思わされてしまう。
< 116 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop