きっと、月が綺麗な夜に。
「……お願い、弾いてよ。あたしはとらの歌、聴きたい。あんたのかーちゃんが言ったことなんか知るか」


美矢の視線が、僕の視線とかち合った。少しくすみがかった灰色っぽいまん丸の中に、僕の姿が反射している。


「僕、君みたいに上手くないよ。ずっと誰にも聴かれないようにこそこそ歌ってたから、声も小さい」

「大丈夫、あたしの耳に間違いがなければ多分、とら、歌上手いと思うし。初めて会った時から、歌ったら上手そうって思ってた」

「え、うそ。そんなことないよ」


あまりにもいつも通りのトーンで、だけど至極真剣に言い放った美矢に思わず喉を鳴らして笑ってしまう。

「じゃあ、僕が歌ったら、君のことも教えてくれる?」

「あたしの、こと?」

「うん。君のこと、知りたい。僕はまだ、君を知らなすぎるよ……ダメ?」

この島に美矢が来て1ヶ月も過ぎた。だけど、知らないこと、まだまだたくさんあるんだよ。
例えば、君の苗字とか、出身地とか、嫌いな食べ物があるのか、とか。
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