きっと、月が綺麗な夜に。
歌い終わった途端、むず痒さが一気に羞恥となり、身体中を駆け巡った。

恥ずかしくて首の後ろを強めにかきながら「ほら、変な感じになった」なんて言いながら美矢の方を見ると、そのまん丸の瞳の、彼女側から左の方から、ほろ、と大粒の涙が落ちた。


「わ、ちょっと!えっ!ええ」


まさか美矢が泣くなんて想定していなかったから拭くものが手元になくて、慌ててギターを床に放って、空いた手で頬を包み、親指で涙を拭った。

このまま唇を奪ってしまえれば良いのに、立場とか、色んなことがぐるぐるして、そうすることしか出来ない。


「ばぁか……話の時からずっと我慢してたのに。思った以上に上手かったし。なんなん」

「え、どうも、ありがとう」


美矢が泣いたのは台風の日から2度目。あの時は顔を見せてはくれなかったけど、泣くと鼻が秒で赤くなる美矢は、どうしようもなく愛おしい。


「人の歌聴いて泣くのなんか初めてだ。りょーちゃんがあたしの聴く度泣いてんの、もうばかに出来ない」

「はは、あの人は涙腺ガバガバだから」


何を言っても、どんな顔でも愛してる。歌ったあの曲そのままに。
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