きっと、月が綺麗な夜に。
僕の存在を繋がった温もりで感じた美矢は「そうだね」と、これ以上幼い自分をたらればで責めるのを止め、淡々と、その後を語り出した。


「その地獄は急に終わった。住んでたアパートの火災が原因でね。睡眠薬で眠りきった母はその騒ぎで起きないまま死んだ。あたしは本当は動ける足で、自分だけ逃げてやったよ。火傷は負ったけどね。見殺しにしてやってせいせいした。罪悪感は今もない」


こんなことを言ってしまってはいけないのだけれど、僕は心の底から『よかった』と思った。母親の精神疾患なんて情状酌量の余地を僕は持てない。
見殺しとかそんなのどうでも良くて、美矢が解放されたことを素直によかったと思う。


「親族はいなくて、残ったのは父親の膨大な遺産と母親の保険金だけ。あたし、多分一生遊んで暮らせるくらいの金持ち。それだけはマジで感謝」


以前、僕に「引くほどお金を持っている」と言っていたのはそういうことだったのか。高校を出て、気ままに放浪出来たのもまた然り。


「あたしを引き取ってくれたじいちゃんは、かなり遠縁の親戚でね。老後の余生でビジネス街で音楽パブを開いてる人で、それまではプロのフラメンコギタリストだった人。その人にギターを習ったんだよ」


きっと、美矢が優しい子に育ったのはその人のおかげだろう。愛おしそうに空を見上げた美矢にとって、おじいさんとの2人暮しは幸せだったに違いない。
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