きっと、月が綺麗な夜に。
もしかしたら、武明先生がいた時期と美矢が母親に苦しめを受けていた時期が被っている計算になることを、美矢は怖く思ったのだろうか。

武明先生がこの島に来たのは僕が中学に上がった歳だったはずだから、つまり、12年前の話になる。

12年の間に1度単身赴任で3年間本土の学校勤務になったようだが、教師の決まりの最低3校勤務の条件はクリアして、今は組合に入っているから余程のことをやらかさなければ島の学校にずっといれる段階に突入していらしい。

その12年前というのは美矢が6歳の時。
つまり、母親の代理ミュンヒハウゼン症候群の被害に遭っているさなかだが、火災のことは当時親御さんに聞いているかもしれないが、体感はしていないこととなる。

死者が出た火災に加え、その死者が代理ミュンヒハウゼン症候群だったのだ。当時ニュースにもなっただろうし、好奇の目に曝されて来ただろう。

もしかしたら自分の過去を知っているかもしれない人間がこんなに身近にいることに、美矢は青ざめていると推測出来る。

美矢が恐れているのは『代理ミュンヒハウゼン症候群の母親の被害者の自分』を知られることなのか、それとも『その憎い母親を火災で見殺しにして自分だけ助かった』ことなのか。

どちらに武明先生が気付こうが、多分この人は何か態度を変えたりする人じゃないし心配する必要ないと、思うのだけれど。
< 139 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop