きっと、月が綺麗な夜に。


つい最近まであんなに暑かったのに、夜に外に出るのに羽織が欲しくなるくらいには寒くなって、夏の終わりを寂しく思う。


「夏、終わっちゃいましたね」

「そうだな、今年はみゃあ子くんが来たから特に、短く感じたなぁ」


元気印の武明先生は、何だか夜が似合わない。休みなく燦々と照りつけて来る太陽みたいな人だからかな。

珍しく声が大きくない武明先生の方を見ると、武明先生もちらりと僕を見た。その顔は、さっき美矢を見つめていた少し寂しげな顔と同じで、この夏の終わりの温度に似ている。

「俺は、みゃあ子くんにまだまだ信用されていないのかも、しれないなぁ」

「先生、もしかして……」

「……すまん、随分前から気付いていたよ。あの件のニュースは、ずいぶんとショッキングだったし幼い少女の写真はマスコミ連中に面白がられるように公表されていたから。地元の事件だったし、本人だから面影もある」


やっぱり、武明先生は美矢が代理ミュンヒハウゼン症候群の母に苦しめられた子だということに気付いていたのだ。
気付いていて、知らないふりをしていてくれたのだ。

「記憶が結び付いたのは、みゃあ子くんの住民票の件に付き合った時に名前を知った時だな。とらちぃ、君はいつから?」


そして、僕も事情をもう知っていると、話してもいないのに悟っている。
< 142 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop