きっと、月が綺麗な夜に。
縁側に相棒を連れて座ると、鈴虫が鳴く庭に野良猫たちが数匹、団子になって眠っている。

そういえば、僕自身こいつに触るのは美矢が来て以来昨日が初めてだった。

1ヶ月も触らないと指が柔らかくなって、フレッドの移動も下手っぴになる。

美矢は高校を出て放浪していたと言っていたが、この島に来る間も毎日弾いていたのかな?僕の方が長くこいつと付き合っていたのに、彼女の方がこいつの相棒に随分ふさわしい気がする。

ハリのない囁くような自分の歌声は、拙く、脆くて、心のど真ん中に刺さるような美矢の歌い方とは全然違う。

ケンゴが美矢を外の世界へ動画という形で発信してくれて良かったと心から思う。

彼女は自分のことはそんなタマじゃない、なんて思っているし、あるいは、人の目に晒されることを怖いと思っているのかもしれないけれど。

コソコソするのは僕のような者が引き受けるし、美矢は自由に、広い世界でたくさんの人の心に想いを伝えていけばいいのに。


君の首根っこを掴んで離さない悪しき過去が憎い。
なのにその過去は会って文句を言ってやれやしないなんて、くそったれだ。
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