きっと、月が綺麗な夜に。


朝、いつも通り庭の水撒きと整備に縁側へ立ち寄ると、当たり前の日常のように美矢がいて、すっかり相棒となったギターを膝に乗せて優しく奏でていた。

それは一昨日美矢に僕が送ったラブソングで、美矢のキーに合わせてカポタストで高くされたギターの音色と共に、原曲とはまた違った美しさで歌詞が紡がれている。

僕に気付いた美矢は、歌うのをやめて僕を眩しそうに見上げた。


「おはよ。昨日、ありがとう」

「おはよう。布団のこと?かけてあげたブランケットのこと?ふふ、可愛かったからいいよ」

「子供扱いかよ、ひとりおっちゃん混ざってたのに」


僕が笑って隣に座れば、美矢も目を細めて微笑み、冗談交じりに朝の会話が始まる。


「今日さ、起き抜けに『旅猫少女』見たけど凄い伸びだね」

「ね。皆こんな小娘の何が良くて見てくれてんだかね」


話題に上がったのはケンゴの作った美矢のチャンネル『旅猫少女』のこと。

初投稿から弾き語り3本に、島の定食屋とカフェハシゴのグルメ動画前編後編を追加したあのチャンネルは、日に日に登録者が増えて開設から間もないのに15万人の登録者目前となっていた。

弾き語りはもちろんだけれど、グルメ動画の伸びは予想を遥かに超えたらしい。
まあ、口から下しか映らなくても美矢の小柄なのに綺麗に食事が消えて行く様はしっかりと楽しめるから、見ている人の気持ちは分かる。
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