きっと、月が綺麗な夜に。

何度でも押し返す



まずは曲作りのコンセプトから固めようということになり、僕たち3人はプレハブ小屋の地べたに座り、美矢が既に鼻歌とギターだけで作った曲のサンプルのパターンの入ったスマホと歌詞とは呼べないメモ書きを囲んだ。


「ふーん、こりゃ確かに、歌詞作る能力は無さそうだね。骨が折れるよ」

「でも楽しそう。それに、すぐるんプロだから凄いんでしょ?大丈夫なんでしょ?」

「生意気な子だ。当たり前でしょ」


やけに丸っこい文字の羅列を眺めながら不敵に笑った優は、美矢の作ってきたデモ音源をイヤフォンで聴きながら眺め続ける。


「これらを歌詞にするならこの曲は地味。あ、でもここのラインはこっちに繋ぐと使えそう、ちょっとラララ、でいいから歌って」


早速プロデューサー魂に火のついた優の指示に、美矢はうん、と首を縦に振って指示通りに歌い出す。そのメロディーを耳に、僕は文字の羅列から近しい音を繋ぎ、足りない接続語を足して行く。

音楽の女神に微笑まれた2人のやり取りを聞きながら素人の僕がそれをしなければならないのだから、骨折れなのは僕の方だ。


「とらちゃん、鈍ったんじゃないの?何それダサい」

「あ、すみません」


この厳しさは昔からだ。高校生の時から音楽配信をし続けていた優は間違いなく天才だ。
ただ、歌だけは上手くなくて、天は二物を与えず、とはまさに優を指す言葉んじゃないかと思える。
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