きっと、月が綺麗な夜に。
「猫ちゃん、MVの方向性は固まってるの?」

「んふ?んぐ……それに関してはあの動画の主に全部任せるつもり」

「え、あれは猫ちゃんが作ってる物じゃないんだ?」


夢中で食べていたところに話しかけた優に嫌な顔ひとつせず、口の中の物をちゃんと飲み込んで返ってきた言葉に、優は少し驚きの声を上げる。


「あんな平和ボケしたジジババと猫だらけの島に、あんな素敵な動画作れる人がいるんだね」

「うわ、失礼だな君は。聞いて驚くなよ、あの動画作ってるの、中学三年生の男の子だよ。美矢が企画出すのは今回初。これまで出した動画は、美矢の島での生活をその子が上手く撮影して出したものだ」


何度か島に来たことのある優は多分、あの動画自体美矢の才能だと思っている。
美矢はすごい。だけど、発信する力を持ってその才能を広げたのは幼いクリエイターだ。

意外すぎるその真実に、優はニヤニヤして唇を震わせる。
大学時代、作詞スランプだった時僕が、今日みたいに、他人が生み出した単語を文章として繋げるのを初めて見た時と同じ顔。


「凄いね、実はあの島、才能の宝庫じゃん」

「凄いよケンゴは。きっと大物になるよ」


新しい才能を見つけた時の優のワクワクした顔は、昔からちっとも変わらない。
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