きっと、月が綺麗な夜に。
僕も少し疲れたのか、丸まって眠るこの小さな少女の微かな寝息のみが響く空間で、今日のことを断片的に思い出す。

今は穏やかな時間が流れているけど、あの出来上がった歌詞は聴く人には重たく感じる、エネルギーのいるものに仕上がった。


「この曲のタイトル、どうするの?」

「何度でも押し返す、かな。歌詞は落ちてしまった側をイメージしたから。だからあたしが落ちそうになったら押し返す、こっちへ来るなって、そういう感じ」


そんな会話を完成した歌詞を見ながら2人で話しているのを眺めていた記憶をふと思い出し、心臓に針が刺さるような小さな痛みが走った。

美矢の根底の過去は聞いた。けれど、そこから今に至るまでのことは深くは語らなかったから、どんな思いで、どんな時間を過ごしてきたかなんて分からない。

美矢にとって深い闇の底があったのかな。事が終わったから、それで終わりじゃなかったのだろう。

『引っ張り上げる』『手を差し伸べる』じゃなくて『押し返す』と表現したことが酷く痛ましい。

じゃあ、押し返す場所にいる美矢の全てを希望に引き上るには、何が必要だと言うんだ。
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